研究内容

植物栄養研究室

① 有用元素を増やし、付加価値の高い作物を作る。
1-1 コメの鉄・亜鉛栄養価を高める研究

世界人口の約半分が主食としているコメのミネラル栄養価を高めれば、「隠れた飢餓」ともいわれる微量栄養素欠乏症の改善に大きく貢献します。そこで、金属栄養の体内輸送や鉄の蓄積に関連する遺伝子の発現を強化し、圃場栽培により白米中の鉄栄養価を4倍、亜鉛栄養価を60%増加させました。また、重イオンビームを照射したコシヒカリ変異株を4世代にわたり圃場栽培し、鉄や亜鉛含有量の高い変異株を選抜しました。

あきたこまちなど秋田県の稲品種の鉄・亜鉛栄養価を高め、新たな秋田県のブランド米を開発したいと考えています。

高ミネラル米の作出
高ミネラル米の作出

高ミネラル米の作出
鉄・亜鉛栄養価の高いイネの栽培

1-2 石灰質土壌における鉄欠乏に耐性を示すイネの開発

植物も、鉄が足りないと、光合成に必要なクロロフィルが合成出来なくなり、生育できなくなります。特に、石灰質土壌などのアルカリ性の土壌では、鉄が土壌に溶け出さず植物が吸収できないため、特に鉄欠乏が顕著になります。鉄の吸収能力を上げて、本来植物が栽培できないようなところでも生産できたら、利益が高いと考えています。イネに三価鉄還元酵素遺伝子の導入、ムギネ酸合成酵素遺伝子の導入、鉄吸収に係る転写因子の発現強化を同時に行うことで、イネの鉄の土壌からの吸収能力を高め、様々な栽培条件においてより優れた鉄欠乏耐性能を持つイネを作出しました。

左:通常のイネ 右:鉄欠乏耐性イネ
左:通常のイネ 右:鉄欠乏耐性イネ

1-4 ポプラの鉄欠乏応答に関する研究

ポプラは、低温や乾燥などの環境ストレスに強く短期間で生育するため、バイオマス生産において有用な樹木です。内モンゴル自治区の砂漠の緑化にも使われています。砂漠の土壌はアルカリ性の場合が多く、ポプラの鉄吸収能力を高めることが出来れば、砂漠の緑化により有効だと考えています。こちらの研究テーマでも、ポプラの鉄の吸収能力を上げ、利用可能な鉄の少ない貝化石土壌においても生産量を向上させたいと考えています。その前段階として、石灰質土壌と鉄欠乏水耕液で栽培し、ポプラの鉄欠乏時の生理応答を調べました。また鉄欠乏時に発現が誘導される鉄関連遺伝子を調べ、ポプラの鉄欠乏耐性の仕組みを明らかにしました。

ポプラの鉄吸収能力を強化し、鉄欠乏により強いポプラを作り、砂漠の緑化に貢献出来たらと考えています。

ポプラの水耕栽培 左:鉄有り 右:鉄欠乏
ポプラの水耕栽培 

左:鉄有り 右:鉄欠乏

② 植物の有害元素を減らす
2-1 セシウムを吸わないイネを作る。

東日本大震災に起因する福島第一原発事故で放出された放射性セシウムの作物への移行阻止は日本の大きな課題です。セシウムとカリウムは性質がよく似ているため、長らくカリウムの輸送経路を通して植物はセシウムを吸収していると考えられてきました。しかしながら、カリウムは植物の生育にとって非常に重要な栄養であることから吸収経路が数多く存在し、どの経路によってセシウムが取り込まれているのかは今まで明らかにされていませんでした。

我々は、突然変異を誘発させた10000個体近くのイネ変異体(遺伝子組換えでない)を栽培した結果、その中に極端にセシウムを吸わない個体があることを発見しました。この個体の遺伝子解析の結果から、カリウム輸送体の一つ(OsHAK1)が、イネの根が土壌からセシウムを吸収するときの最も重要な輸送経路であり、その他の輸送体を経由した吸収は極わずかにすぎないことを明らかにしました。この遺伝子の機能を失ったイネは根からほぼセシウムを吸わなくなり、玄米のセシウム濃度は親品種(あきたこまち)の1割以下と、ほぼセシウムを含まなくなることを証明しました。

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セシウム除染の様子

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イネのセシウム吸収経路の解明

2-2 カドミウムを吸わない作物を作る。

過去の鉱山開発によるCdによる農地汚染は、秋田県でも大きな問題として残っています。水田のイネおよび転換畑でのダイズのCd吸収が特に問題であり、突然変異誘発によりイネとダイズでCdの吸収メカニズムの解明、低吸収品種の開発を進めています。ダイズではこれまで低吸収系統が作出されていませんが、イオンビーム照射により豆のCdが半分以下になる系統を複数作出し、原因遺伝子解析を進めています。

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Cdを吸わないイネの研究の様子

2-3 土壌中の可給性カドミウムの形態と吸収抑制

土壌中でCdはさまざまな形態で存在していますが、植物が吸収する可給態のCdの形態は知られていません。これらの形態を明らかにするとともに、可給態Cdを有機物などに結合させ不可給化し、植物に吸収されない形態にすることを目指しています。

2-4 イネの鉄過剰症に関する研究

酸性土壌では、逆に鉄が土壌中に大量に溶けだすため、作物に鉄過剰による障害をもたらすことがあります。特に、中国や東南アジアにおいて、鉄過剰症が稲作に悪影響を与えています。イネの水耕栽培で様々なレベルの鉄過剰ストレスを与え、鉄過剰レベルと生育への影響との関係を明らかにしました。また、鉄過剰処理による遺伝子発現の変化をマイクロアレイにより解析し、イネの鉄過剰応答に関わる遺伝子の候補を複数発見しました。

また、イネの鉄過剰耐性のメカニズムを解明し、鉄過剰耐性イネを作出し、東南アジアなど鉄過剰が問題となっている地域の稲作の生産向上につなげられたらと考えています。

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イネの水耕栽培写真

③ 有機性廃棄物の有効利用
3-1 畜産廃棄物、生ゴミなどの有機性廃棄物の堆肥化と、その肥料としての利用

有機性廃棄物中には、窒素、リン、カリウムなどの肥料成分が含まれています。それらを有効に利用するために、最適の堆肥の作成法、作成した堆肥の最適の施肥法を研究しています。それにより、物質循環を利用した作物生産体系を構築することを目指しています。

土壌中に有機物として蓄積されている炭素量は大気中の炭素量の3倍以上に達します。このように土壌には炭素を蓄積する機能があるので、土壌への有機物の施用は大気中の二酸化炭素の削減にもつながります。

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3-2 有機性廃棄物を利用して作物中の亜鉛を増やす

畜産廃物、下水汚泥などの有機性廃棄物は、窒素、リンなどの肥料分を含むとともに、亜鉛などの微量有用元素を多く含みます。しかし、その微量有用元素の活用についての研究はほとんどありません。有機性廃棄物中の微量元素の多くは植物が吸収できない形態で存在していますが、可給化し植物に吸収させることで、人体に有用な亜鉛含量の高い作物の生産を目指しています。

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コマツナへの下水汚泥の施肥実験

3-3 籾殻を燃料として熱利用

コメの生産では収穫した籾重量の1/5の籾殻が発生します。籾殻は畜舎の敷材や暗渠の補助材など用途が限られ、その25%近くは廃棄(放置)されています。この籾殻を燃料にした熱供給が試みられています。しかし、籾殻に含有されるケイ素(Si)が結晶化して生じる結晶性シリカ(発がん性物質)など課題があり、実用化には至っていません。3年前から大潟村との共同研究で籾殻の燃焼条件、燃焼灰の有効利用について検討を行い、安全に籾殻を燃焼できる燃焼炉を選定するところまで進んでいます。

④ 土壌―植物系の解析技術の作物栽培への応用

世界的な人口増加に食糧危機に直面している中、土壌の劣化や侵食、バイオエタノールの生産増加がより一層の食糧増産をもはや困難なものにしています。安定な食糧生産のためには生産力のある土壌を作り、何より維持することが重要です。地力の維持には有機物施用が不可欠であり、そのために堆肥などの有機物や土壌微生物をより効果的に利用する技術開発を目指しています。

土壌は様々な元素を含み、その構造や化学性は複雑で、多くの微生物も住んでいます。土壌の機能、特に有機物分解のほとんどは微生物の働きによるものです。しかし、土壌に住む微生物のほとんどは培養できず、未知の微生物ばかりであることが近年分かってきています。裏を返せば、多くの新しい微生物たちがいるということであり、その機能の理解と利用のため、土壌から直接DNAやRNAを抽出して遺伝子を解析する技術を開発しています。このような分子生物学的な技法と質量分析などの最先端の分析技術を用いて、土壌の有機物分解や腐植化、アミノ酸などの有機態窒素の供給による作物の生育促進、高品質化についての研究を進めています。

4-1 土壌微生物のDMA量により地力を測定する

我々の研究室は土からDNAを抽出する技術を持っています。土からDNAを抽出し、土の微生物を調べることができるのです。作物栽培では土にがどれぐらいの養分を微生物が作物に供給してくれるかが重要です。私たちは土のDNA量=土壌の微生物量(可給態窒素)として地力を測定する方法を確立しました。

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