""
トップ   講座紹介   研究目的             教員紹介   研究業績


 私たちはこれまで、主としてイネを実験材料にして、どのような仕組みで、何種類の酵素がそれぞれどのような役割を果たしながら、種子内にデンプンが合成されるのかに焦点を当てて研究を行ってきた結果、デンプン合成システムの基本的な特性が次第に明らかになってきました。注目すべきことに、植物のデンプン合成システムは、当初予想していたよりもはるかに複雑でかつ精妙に制御された系であることが分かってきました。
 今後、植物が進化の過程で、合目的に進化させてきたデンプン構造を正しく理解し、デンプン合成に関する遺伝子的かつ酵素的制御の仕組みを明らかにすることを目ざして研究を行っていきたいと思っています。それと同時に、バイオテクノロジーによる遺伝子発現制御法やタンパク質工学的手法を適用して、天然に存在するデンプンとは異なる新素材デンプンの開発を目指しています。これら目的のために現在行っている研究を以下に要約します。

 ジャポニカ、インディカのデンプン品質の差異の原因解明  デンプン構造改変の為の形質転換体の作成および解析
 イネには、私たち日本人が食べるお米を生産するジャポニカと呼ばれるタイプの他に、インディカと呼ばれるタイプがあります。ジャポニカ米とインディカ米は、食味や食感が異なり、どちらのお米を好むかはそこに住む人々の食文化に関わる問題です。私たちは、ジャポニカ米とインディカ米のデンプンの品質の違いが、アミロペクチン分子構造の違いに大いに起因していることを見い出し、その原因酵素の解析を行っています。デンプンの違いの原因を、イネの起源・進化の問題とも関連させて、明らかにしていきたいと考えています。

 個々の酵素はアミロペクチン構造の形成にそれぞれ異なる役割を担っていて、いずれの酵素活性が変動しても、異なる構造のアミロペクチンが形成され、新しい物性・品質を持つデンプンが出来ると考えられます。通常のイネや、突然変異体のイネに遺伝子を導入し、キー酵素遺伝子の発現制御を行い、形質転換体の形質を調べます。アミロペクチン分子構造とデンプンの物性との関係も明らかにすることも重点目標です。また導入遺伝子の構造・機能そのものを改変したり、イネに異種(他の植物の)遺伝子を導入する新しいアプローチにも挑戦します。

 様々なデンプン合成関連酵素遺伝子の突然変異体の解析  植物のデンプン合成システムの進化過程の解析
 10種類以上もの多数の酵素が関与するデンプン合成システムを解析するために、特定の酵素が欠損した変異体を使用しないで、個々の酵素の機能を特定することは不可能です。また、突然変異体は新素材作出のためのバイテク応用研究においても優れた出発材料となります。これまでどおり、化学変異原を用いて作成したイネの変異体の形質を解析するとともに、イネミュータントパネルなどの有用な突然変異体を選抜して、それらを研究材料にした解析研究を行います。

 既に述べたように、植物はデンプン合成システムを進化の過程で構築し、植物の生存戦略上有利なデンプン構造を進化させてきました。事実、植物の原形をとどめ、恐らく植物の中で地球上に最も早く出現したと考えられるラン藻(シアノバクテリアとも言う)のデンプンは、グリコーゲン様かアミロペクチンとグリコーゲンの中間型の構造をしています。私たちは、現存する藻類やさまざまな植物のデンプン構造や合成代謝を解析し、高等植物がいかにしてデンプンを進化させてきたかを探りたいと思っています。
 デンプン合成に関与する遺伝子及び酵素の単離と機能解明
 デンプン合成システムを構成している遺伝子・酵素を単離し、その構造や性質を調べることが、システムを理解する基礎研究の上でも応用研究の上でも、最も基本的なことです。ゲノムサイエンス情報も駆使して、まだ解明されていない遺伝子、酵素の構造と機能を明らかにします。