研究内容

生物活性物質研究室

研究内容を紹介します

研究内容

はじめに

 植物のさまざまな生命現象や昆虫の行動は化学物質によって制御されています。たとえば、植物の伸長生長はジベレリンにより、気孔の開閉はアブシジン酸によって制御されています。また、ジャスモン酸は、傷害や食害、病害ストレスへの応答に関わる植物ホルモンとして知られています。ジャスモン酸はアミノ酸のイソロイシンと結合して活性体となり、抗菌性二次代謝物や昆虫の消化酵素を阻害するプロテアーゼインヒビターなど防御物質の生産を誘導します。一方、昆虫の行動は、昆虫の「言葉」にあたるフェロモンや、植物の味や匂いによって制御されています。しかし、これまで天然から単離された化学物質だけで生命現象がすべて制御されているのでしょうか。
 生物活性物質分野では、植物の生長や代謝、また昆虫の行動を制御する新しい化学物質を見つけ出し、その作用メカニズムを明かにするとともに、それらを農業・園芸などに応用していく研究を行っていきます。

現在の主なテーマ
1.植物ホルモンをモデルとした新しい除草活性物質の研究

 詳しくは【こちら

2.香り物質を介した植物と昆虫のコミュニケーションに関する研究

 植物はさまざまな香りを発していますが、これにはどのような意味があるのでしょうか?
 ある種の植物では、葉や茎などを昆虫に食べられてしまったとき、この昆虫を襲う別の昆虫(天敵)を呼び寄せる特別な香り物質を発することが知られています。こうした香り物質の生産を制御する化学物質の一例として、植物ホルモンであるジャスモン酸が知られています。実際に、イヌタデの葉をジャスモン酸水溶液に浸してみると、葉が昆虫に食べられたときと同じような特徴的な香りが放出されます。ガスクロマトグラフ-質量分析計(GC-MS)などの分析機器を用いて、どのような香り物質がどのくらい放出されるか、また、その物質の働きや生合成を調べ、植物と昆虫の相互作用を分子レベルで理解しようとしています。

3.昆虫の寄主認識に関する研究

 植物を食べる昆虫には、選り好みをせずに何でも食べてしまうものもいますが、多くの場合、好んで食べる植物は限定されています。昆虫は植物に含まれる化学物質を「好きな味」や「嫌いな味」と判断して、食べる植物を選んでいます。
 昆虫の好き嫌いに関係する化学物質を活用して、昆虫をおびき寄せたり、寄せ付けなくするなど昆虫の行動を制御することもできると考えられます。このような取り組みは、化学農薬だけに過度に頼りすぎない、より環境に調和した害虫防除法の開発に繋がると期待できます。

4.カメムシの化学生態学的研究

 カメムシは驚くと「くさい」においを発します。カメムシはくさいイメージが強いと思いますが、中には青リンゴのように爽やかなにおいを放出する種もいます。カメムシの発するにおいは外敵から身を守るために役立ちますが、同じ種類のカメムシ同士のコミュニケーションにも重要な役割を果たします。このように同種の個体間で作用する化学物質を「フェロモン」と呼びます。これまで、カメムシのフェロモンや、カメムシのにおいがどのように外敵に作用するかを調べてきました。現在は、カメムシがどのように餌を探すかにも興味を持っています。カメムシの発するにおいの役割や、カメムシとその周囲の生き物との関わりあいを理解することで、カメムシ対策を考えたり、何か新しい発想に繋がればと思い、研究しています。
 ◎カメムシのフェロモンについては【こちら
 ◎カメムシの餌探索については【こちら】と【こちら
 ◎カメムシの臭気成分とその働きについては【こちら